株式会社と代表取締役との利益相反取引について
1.普通自動車の名義変更
株式会社の代表取締役は、自らが代表取締役に就任している株式会社と個人的に普通自動車の売買契約、贈与契約等を行う際、又は自らが代表取締役に就任している株式会社Aと、同じく代表取締役に就任している株式会社Bとの間で自動車の売買契約、贈与契約等を行う際には、利益相反取引(会社法356条第1項2号)に該当する為、株主総会又は取締役会の承認決議が必要になります。このような名義変更をする際には添付書面として、運輸支局から株主総会議事録(取締役会設置会社は取締役会議事録)の提出を求められます。
※「指名委員会等設置会社」では、代表取締役はいませんので「代表執行役」と置き換えます。
2.「利益相反取引」の会社法の規定について
会社法356条は第1項2号において次のように規定しています。
「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」
一.(省略)
二.取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
※「取締役」とは「代表取締役」を含めた表現です。→取締役ではない人は代表取締役になれない為。
※取締役会設置会社では、この承認決議は取締役会が行います。
なお、例えば、代表取締役Aが自ら代表取締役に就任している株式会社に、無償で財産(例えば自動車)を贈与するような契約は、会社法356条第1項2号の利益相反取引には該当しません。
利益相反取引の規定は会社の役員が会社に損害を及ぼすことを防止するための制限規定だからです。→会社法356条第1項2号の「取締役(代表取締役)が自己又は第三者のために株式会社と取引(自己又は第三者に一方的に有利に働くような恐れのある取引)をしようとするとき」の行為に該当しない為。
しかしながら、自動車の名義変更をする際には、この場合(代表取締役個人の所有している自動車を自分が代表取締役に就任している会社に無償で譲る場合)でも株主総会議事録又は取締役会議事録の提出が求められます。
自動車の名義変更の場合、売買契約書、贈与契約書等は運輸支局に提出しない為、所有権移転の原因は申告制(申請書の「原因」欄に書くのみ)となります。
その為なのか、名義変更当事者が提出する法人の印鑑証明書の代表取締役と同一氏名の人が「新所有者」又は「旧所有者」となる場合には、一律で株主総会議事録又は取締役会議事録の提出を求めています。
参考までに以下に会社法の規定について説明します。
会社法356条第1項2号
「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」
(会社法356条第1項2号)
取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき
(参考1)取締役が自己のために株式会社と取引をする場合
例えば、甲株式会社とその会社の取締役Aとの間でを売買契約をするときには、取締役は、当該取引につき重要な事実を開示し、承認を得る必要があります。また、甲株式会社が取締役Aに財産を贈与するときも同じです。なお、取締役Aが甲株式会社に無償で財産を贈与するような場合には、利益相反取引にはなりません。利益相反取引は会社の役員が会社に損害を及ぼすことを防止するための制限規定であるためです。
(参考2)取締役が第三者のために株式会社と取引をする場合
例えば、Aが取締役を務める甲株式会社(取締役会設置会社)と、同じくAが代表取締役を務める乙株式会社(取締役会設置会社)との間で売買契約をした場合、甲株式会社の取締役会の承認が必要です。この場合、甲株式会社側からすると、自社の取締役Aが第三者(乙株式会社)のために取引をすることになり利益相反取引に当たるからです。一方、乙株式会社側からすると、Aは自己が代表取締役を務める乙株式会社のために取引をするのであって、第三者のために取引をするわけではないので、乙株式会社の取締役会の承認は不要となります。
(豆知識)株式会社の「役員」とは、会社法上、取締役(代表取締役)、監査役、会計参与、指名委員会等設置会における執行役のことを指しますが、利益相反取引の対象となる役員は、取締役(代表取締役)と執行役です。取締役以外の役員(監査役、会計参与)及び役員ではない会計監査人は利益相反取引の制限規定は適用されません。※監査役、会計参与、会計監査人は監査機関であり、会社の意思決定機関ではないので会社法356条第1項の適用はありません。